
インフルエンザが流行すると、よくこんな相談を受けます。
「家族で同じように発熱したのに、子どもだけ陽性で、大人は陰性でした」
これは検査の誤りではなく、子どもの体の中でのウイルスの増え方が大人と違うためかもしれません。
目次
子どもはウイルスがたくさん増える→検査で陽性になりやすい
インフルエンザウイルスは、鼻や喉の粘膜で増えるウイルスです。子どもは免疫の発達が途中段階にあり、ウイルスを“入り口”で食い止める力がまだ弱いのです。
そのため感染すると、体の中でウイルスが一気に増えやすく、鼻水や唾液に含まれるウイルス量も多くなります。
この「ウイルス量」が多いほど、検査キットが反応しやすくなります。
つまり、子どもは発症してすぐでも検査で陽性になりやすいのです。
大人は免疫が早く働き、陰性になることも
一方で大人は、これまでの感染やワクチン接種で、ある程度の免疫を持っています。
体はウイルスを“見た瞬間に”対抗するため、ウイルスが大量に増える前に排除が始まります。
その結果、鼻や喉に出てくるウイルス量が少なく、検査で「陰性」と出てしまうことがあります。発熱初日では陰性でも、翌日には陽性化するケースも珍しくありません。
ですから、症状が強いのに陰性の場合は、「ウイルス量が少ないだけ」ということもあるのです。つまり、検査で陽性になるほどウイルス量が増えていないということです。
子どもはウイルスを長く出す
大人では発症から3〜5日ほどでウイルス量が減りますが、子どもは免疫反応がゆっくりなため、1週間以上ウイルスを出し続けることがあります。
これは単に「治りが遅い」わけではなく、体がウイルスと闘っている時間が長いためです。
「子どもが治ったと思ったら、次は親が発熱した」という家庭内感染のリレーが起こるのは、このためです。
科学的な裏づけ:論文データから
この特徴は実際の研究でも確認されています。米国・ニカラグアで行われた家庭内感染の追跡研究では、次のような結果が報告されています。
“The Timeline of Influenza Virus Shedding in Children and Adults in a Household Transmission Study of Influenza in Managua, Nicaragua.”
Ng S. et al., Pediatric Infectious Disease Journal, 2016; 35(5): 583-6.
- 子ども(0〜5歳)の約69%が、発症前からすでにウイルスを排出していた。
- 発症後の排出期間も大人より平均で約4日長い。
- 結果として、子どもは感染を「始めるのが早く」「終わるのが遅い」ことが明らかになっています。
この研究は、なぜ保育園や家庭で子どもを中心に流行が広がるのかを裏付けています。つまり「子どもはウイルスを多く、長く出す」――それが“陽性になりやすい”理由です。
検査タイミングの注意点
インフルエンザ検査は、ウイルスが十分に増えていない時期に行うと陰性になることがあります。特に大人では発症から12時間以内では反応が出にくいことがあります。
一方、子どもは早期からウイルス量が多いため、発症して数時間でも陽性が出ることがあります。
家族で同時に発熱して「子どもだけ陽性」「親は陰性」というのは、このウイルス量の差によるものです。
家庭でできる感染対策
子どもが陽性になったときは、家庭内での二次感染を防ぐ工夫が大切です。
- 発症後3日間は最も感染力が強い
- タオル・食器・箸の共有を避ける
- 室内の湿度を40〜60%に保ち、換気を行う
- マスクが難しい小さな子は、なるべく距離をとる
- 生後6か月未満の赤ちゃんがいる家庭では、家族全員のワクチン接種が最大の防御策(生後6か月未満のお子さんはインフルエンザワクチンの接種対象外です)
まとめ
- 子どもは免疫が未熟でウイルスがよく増えるため、検査で陽性になりやすい
- 大人は免疫反応が早く、発症初期では陰性のこともある
- 子どもは長くウイルスを出すため、家庭内感染のリスクが高い
- 検査タイミングと家庭内の対策が大切
- 科学的にも、子どもは「ウイルスを多く・長く」排出することが確認されている