📅 2026年5月13日 (0日前に公開)

この記事でわかること:①イヌサフランと行者にんにくの見分け方3つのポイント、②食べてしまったときの症状とコルヒチン中毒の独特の怖さ、③すぐ受診すべきタイミング。「もしかして間違えて食べたかも」と思った方は、スクロールして「こんな症状が出たら、すぐ受診を」のセクションを先に読んでください。
5月。札幌でも雪解けが進み、行者にんにくの季節がやってきました!
ニンニクのような独特の香りとパンチのある味で、北海道では春の山菜の代表選手ですよね。わたしの知り合いにも行者にんにくのファンがいて、毎年のこの時期になると山に入ってその場で調理するようです。わたしは最近は行者にんにくを食べることはありませんが、実家にいた頃、ジンギスカンに入れて食べたのが懐かしい思い出です。
当院のスタッフにも聞いてみたところ、やはり行者にんにくが大好きなスタッフがいて、毎年のように食べるそうです。
北海道の山菜の中でも、最も人気のあるものの一つで、アイヌネギの呼び名もあります。このユリ科の多年草の名の由来は、昔、山伏などの修験者が、山の中で体力をつけるために食べたところから「行者ニンニク」→「ギョウジャニンニク」になったのです。
ただ、内科医として毎年この時期にお伝えしたいことがあります。
「行者にんにくを採りに行く」「庭に植えている」という方は、ぜひ最後まで読んでください。命に関わる話です。
目次
2026年4月、札幌で起きた誤食事故
今年も4月、札幌市内で70代の女性が、庭に生えていたイヌサフランを行者にんにくと間違えて食べてしまい、命を落とされました。
これは特殊な事故ではなく、毎年のように、この季節に同じことが繰り返されています。
厚生労働省のデータ(過去10年・全国)
有毒植物による食中毒で亡くなった方:17人
そのうちイヌサフラン誤食による死亡:13人
有毒植物による死亡の約8割がイヌサフランによるものです。
そして、その多くが「行者にんにくと間違えた」北海道での事故です。
過去には静岡県や山形県でも同様の死亡事故が報告されていますが、北海道での発生が突出して多いのが特徴です。行者にんにくの食文化と、観賞用イヌサフランが各家庭の庭に植えられていることが重なる地域だからです。
「山菜採りに山に入った」という事故より、「自宅の庭に生えていた」というケースのほうがむしろ多いのが、この事故の特徴です。
ご自身で植えた覚えがなくても、前の住人が植えていた・球根が紛れ込んでいた、というケースは珍しくありません。
そもそもイヌサフランって?
イヌサフラン(別名:コルチカム)は、明治時代にヨーロッパから入ってきた園芸植物。秋にクロッカスに似た紫色の花を咲かせるので、観賞用に庭に植えられています。
問題は、春に出てくる葉が、行者にんにくの葉とそっくりなんです。
毒の成分は「コルヒチン」というアルカロイド。実は痛風発作の治療薬としても使われている成分なのですが、致死量はわずか0.8mg/kg(体重60kgの方なら約50mg)。球根なら2〜3個で致死量に達してしまうレベルの強さです。
葉も同様に毒を含んでいます。行者にんにくと間違えて醤油漬けやお浸しにすると、大量に食べてしまうことになり、これが事故を重症化させます。
食べてしまったときの、本当の怖さ
コルヒチン中毒には、ほかの食中毒にはない「3段階の経過」という独特の怖さがあります。これを知っておくかどうかで、命が分かれることがあります。
コルヒチン中毒の典型的な経過
- 第1段階(食後2〜12時間):嘔吐・下痢・腹痛 ← 食あたりと区別できない
- 第2段階(1〜3日後):一見、症状が落ち着いたように見える ← ここが落とし穴
- 第3段階(2〜7日後):急性腎不全・肝障害・骨髄抑制・多臓器不全
そして、コルヒチンには有効な解毒薬がありません。対症療法で全身を支えるしかなく、多臓器不全に至るとほぼ救命できません。
怖いのは第2段階。一度吐いて下して、「ああ、食あたりだったか、もう治った」と安心してしまう。実は体の中ではコルヒチンが細胞分裂を止め続けていて、数日後にじわじわと臓器が壊れていく。気づいたときには手遅れ、という経過をたどります。
「最初は単なる胃腸炎だと思った」というケースが多く、受診が遅れて重症化することが少なくありません。
行者にんにくとイヌサフラン、3つの見分け方
札幌市保健所が示している見分け方を、シンプルに3つにまとめます。
| 行者にんにく(食べてOK) | イヌサフラン(猛毒) | |
|---|---|---|
| ① 香り | 強いニンニク臭 | 無臭 |
| ② 茎の根元 | 赤紫色の薄皮がある | 薄皮なし(緑のまま) |
| ③ 葉の出方 | 1つの芽から葉は1〜2枚 | 1つの芽から葉が多数重なる |
一番わかりやすいのは①の香りです。
葉や茎を少しちぎって指でこすり、ニンニク臭がしなければ食べてはいけません。これだけ覚えておけば、ほとんどの事故は防げます。
②の赤紫色の薄皮は、行者にんにくの根元を見るとはっきりわかる特徴。これがない時点で行者にんにくではない、と判断してください。
③の葉の出方も、慣れれば見分けやすい特徴です。行者にんにくは1つの芽から葉が1〜2枚しか出ませんが、イヌサフランは複数の葉が重なるように出てきます。芽の根元をよく見て、葉が何枚出ているかを確認してください。
実際の植物の見た目を写真で確認したい方は、以下の公的機関のページをご覧ください。
農林水産省「ギョウジャニンニクとコルチカム(イヌサフラン)の比較写真」
東京都健康安全研究センター「ギョウジャニンニクとイヌサフラン」
覚えておいてほしい「4つのない」
札幌市保健所が呼びかけているフレーズです。覚えやすいので、ご家族で共有してください。
食用と確実に判断できない植物は
✅ 採らない
✅ 食べない
✅ 売らない
✅ 人にあげない
とくに最後の「人にあげない」が大切です。
「もらいものだから安心」とは限りません。くれた方が間違えている可能性があるからです。実際に、ご近所からもらった山菜で中毒が起きた事例も報告されています。
逆もまた然り。ご自身で採った行者にんにくを「これおすそ分け」とご近所に渡すことが、結果的にだれかの命を危険にさらすことがある。採取と贈り物は、慎重に。
こんな症状が出たら、すぐ受診を
春のこの時期、山菜を食べた後の嘔吐・下痢は「ただの胃腸炎」と決めつけないでください。
受診の目安
山菜を食べた後、数時間〜半日以内に、
・繰り返す嘔吐や水様性下痢
・手足のしびれ
・動悸、息苦しさ
・口や舌のしびれ
・尿が出ない、出にくい
これらが1つでもあれば、すぐ医療機関へ。
夜間・休日にどこへ連絡すればいいか迷ったときは、まず救急安心センター(#7119)へお電話ください。近くの救急病院などを案内してもらえます。症状が重い場合や強い不安がある場合は、救急車(119番)を呼んでください
受診時には「何を、いつ、どれくらい食べたか」を必ず伝えてください。
可能なら食べ残しや調理前の植物を持参してください。これが診断と治療の決め手になります。
そして繰り返しますが、「一度症状が治まった」は安心材料になりません。山菜を食べた後に症状が出たなら、たとえ落ち着いてからでも、必ず受診してください。
迷ったら、買いましょう
ジンギスカンに行者にんにくを合わせる食べ方は、北海道の春の特権ですよね。子どもの頃に食べたあの香りは、今でも忘れられません。
ただ、「ちょっと自信がないな」と思ったら、無理せず道の駅や直売所で買うのがいちばん安全です。プロが選別したものなら安心ですし、お金で安全を買えるなら、それは安いものです。
春の食卓、楽しんでいきましょう。
【参考】
・厚生労働省「有毒植物による食中毒に注意しましょう」(過去10年食中毒統計)