大人の病気

犬を飼う高齢者は、認知症になりにくい 〜効いているのは犬ではなく「散歩と立ち話」〜

📅 2026年9月17日 (0日前に公開)

犬を連れて散歩するおじいさんが、道で近所の人と立ち話をしているクレヨンの落書き

飼えなくても、まねはできる。

犬を飼っている高齢者は、介護が必要になる認知症のリスクが半分近く低かった。
そんな研究結果が、この夏に発表されました。

ただし、効いていたのは「犬そのもの」ではなさそうです。

東京の約11,000人を7年半追った研究です

調べたのは、東京に住む65〜84歳、約11,200人。
追いかけた期間は、7年半。
犬を飼ったことがない人と比べて、いま飼っている人は、要介護認知症になるリスクが48%低い。
国立環境研究所・東京都健康長寿医療センター・東京大学の共同研究。2026年8月の発表です。

ひとつだけ注釈を。これは「犬を飼っている人を長く観察したら、こうだった」という研究です。犬を飼えば認知症にならない、と証明したものではありません。

「歩かない日」と「話さない日」が、札幌では普通になる

これは、犬を飼っている人だけの話ではありません。

買い物は車で、店の前まで。
冬は雪で、玄関から出ない日が続く。
仕事を辞めてから、話す相手は家族だけ。

札幌で暮らしていると、「一日中歩かない日」と「誰とも話さない日」が、気づかないうちに普通になります。
そして、その「普通」が、認知症のリスクをじわじわ押し上げます。

人とのつながりが多い高齢者ほど、認知症になりにくい

愛知県の65歳以上、約14,000人を約9年半追った日本の研究の結果です。
配偶者がいる、家族と支え合っている、友人と会う、地域の活動に出る、仕事をしている。この5つが全部そろっている人は、0〜1つの人より認知症の発症が46%少なかった。
全部そろわなくてもよく、1つ増えるごとに下がっていました。2つで14%、3つで25%、4つで35%減。

偶然ですが、犬の研究の「48%低い」と近い数字です。しかも、こちらは犬を飼っているかどうかとは関係なく調べた研究です。

運動不足と社会的な孤立は、認知症の原因のうち「自分で減らせる14項目」にも入っています。Lancet委員会の集計では、人と会う機会が少ない人は、発症リスクが約1.6倍。
認知症の約45%は、理論上は予防または遅らせられる可能性がある。これがLancet委員会の2024年報告の結論です。

「会っていない」だけでなく、「さびしい」という気持ちそのものも、60万人分のデータをまとめた解析では認知症リスクを31%上げていました。

歩かない。話さない。
その2つが、頭に効いてくる。

効いていたのは、犬がつくる「歩く用事」と「話す相手」

では、犬の飼い主には何が起きていたのか。

効いていたのは、犬そのものではなさそうです。
犬が毎日つくる「歩く用事」と「話す相手」。と考えるのがいちばん自然そうです。

小型犬でも、散歩は毎日いります。
自分のための運動はサボれても、犬が玄関で待っていればそうはいきません。

散歩に出れば、同じ時間に同じ道を歩く人と、顔見知りになります。
犬をきっかけに、名前も知らない相手と立ち話が始まる。

同じ研究チームが2023年に出した前の研究では、犬を飼っていて、なおかつ運動する習慣がある人で、とくにリスクが低くなっていました。飼っていても運動していない人では、はっきりした差は出ていません。
人づきあいについては、孤立している飼い主の人数が少なく、差があるともないとも言えない結果でした。人づきあいの効き目は、さきほどの愛知の研究とLancet委員会の集計のほうが確かです。

もうひとつ、2026年の研究には見逃せない数字があります。
「昔は飼っていたが、いまは飼っていない人」のリスクは、飼ったことがない人とほぼ同じでした。

効くのは思い出ではなく、いま毎日やっているかどうか。
裏を返せば、この2つが毎日あれば、犬でなくてもいいはずです。

かつて:歩くことも、立ち話も、暮らしの中に勝手にあった。
いま:車と便利さのおかげで、意識しないと両方ゼロになる。

だから、原則はひとつだけ。
毎日、外に出て、誰かとひとこと話す「用事」を持つ。

犬の飼い主がやっていることを、まねする3つの方法

  1. 犬がいるなら:散歩は「同じ時間、同じ道」に固定する。
    顔見知りができるのは偶然ではなく、毎日同じ場所にいるからです。コースを変えるより、時間を守るほうが顔見知りができやすい。
  2. 犬がいないなら:「犬の代わりの用事」を1つ決める。
    朝の新聞を取りに出たついでに、角のコンビニまで足を延ばす。決まった店で、決まった店員さんにひとこと。孫の送り迎え。運動を目標にしなくていい。用事があれば、歩く分は勝手についてきます。
  3. 雪の日は:前の晩に行き先を決めておく。
    地下歩行空間や商業施設の中を一周する。除雪のときにお隣と声をかけ合う。これも立派な「散歩と立ち話」です。

よくある誤解

誤解:犬を飼えば、認知症にならない。
本当のところ:わかったのは「犬を飼っている人を7年半みていたら、介護が必要になる認知症が少なかった」ということだけです。犬のおかげとは限りません。もともと元気で、散歩ができて、世話をする余裕がある人だから犬を飼えた。その順番の可能性も残っています。

誤解:猫を飼っている人は、損をしている。
本当のところ:同じチームの前の研究では、猫を飼っている人にはっきりした差は出ませんでした。猫が悪いのではなく、猫は散歩に連れ出してくれないだけ。外に出る用事を別に1つ持てば、犬の飼い主と同じことができます。

誤解:犬を飼えば医療費が浮いて、お得。
本当のところ:犬を飼う高齢者が今より増えて13.4%になった、と仮定した試算では、公的な医療・介護の支出は4年間で約5,920億円減ります。ただし同じ仮定で、餌代や動物病院代を足すと、社会全体では約4.63兆円の持ち出しになります。浮くのは公的な財布で、増えるのは家計です。しかも犬は10年以上生きます。お得のために飼う話ではありません。

犬がえらいのではない。
犬がつくる「用事」がえらい。

今日からできること

  1. 明日の「外に出る用事」を、今夜1つ決める。
  2. いつもの散歩道か買い物先で、挨拶する相手を1人つくる。
  3. 親が一人暮らしなら、今週1回電話して、自分がその「話す相手」になる。

よくある質問

Q. 犬を飼えば、認知症は予防できますか?

そこまでは言えません。今回の研究は「飼っている人を観察したら少なかった」という結果で、飼えば防げると証明したものではありません。犬がつくっている「毎日歩く」「誰かと話す」の2つを、犬がいなくても暮らしに入れることが、この記事のおすすめです。

Q. 猫を飼っています。意味がないのでしょうか?

猫が悪いわけではありません。前の研究では猫を飼っている人にはっきりした差は出ませんでしたが、それは猫が散歩に連れ出してくれないからだと考えられます。外に出る用事を別に1つ持てば、犬の飼い主と同じことができます。

Q. 一人暮らしで、冬は外に出にくいです。何から始めればいいですか?

前の晩に、明日の行き先を1つ決めておくことからで十分です。地下歩行空間や商業施設の中を一周する、決まった店で決まった店員さんにひとこと話す。それも「散歩と立ち話」です。生活のなかでできる認知症対策は、認知症を防ぐために「いま」できる7つのことにもまとめています。

Q. 親が一人暮らしです。子どもにできることはありますか?

「今日は誰と話した?」と確認するより、自分がその「話す相手」になるのが早道です。週1回の電話でかまいません。電話で声が聞き取りにくそうなら、聞こえの低下も認知症の危険因子のひとつなので、耳の相談を勧めてみてください。

出典

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南22条おとなとこどものクリニック

  • この記事を書いた人

小林 俊幸

小林俊幸(こばやし としゆき)|南22条おとなとこどものクリニック院長。小児科・総合内科。子どもからおとなまで、家族をまるごと診られる町の医師でありたい。診察室で「聞いてよかった」と言ってもらえた話を、ここに書き残しています。 お問い合わせはこちら

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