📅 2026年9月15日 (0日前に公開)

「痰がからんで、咳が止まらないんです。」
診察室で、毎日のように聞く言葉です。
ところが、のどをのぞくと、鼻の奥から鼻水がつたい落ちているのが見えることがあります。
出どころは肺ではなく、鼻でした。
健康な人でも、鼻の粘液は1日に約1リットル作られています。
その多くを、気づかないうちに飲み込んでいます。
長引く咳の原因として、鼻からの「後鼻漏(こうびろう)」は世界の診療指針の常連です。
黄色や緑の痰でも、細菌が見つかったのは6人に1人でした。
(出典:Altiner A, et al. Scand J Prim Health Care 2009;27:70-73. 急性の咳の患者241人。色つきの痰136検体のうち細菌が培養されたのは22検体、16%)
朝、起きぬけにだけ痰がらみの咳が出る。
子どもを寝かせると咳き込み、抱き起こすと落ち着く。
かぜは治ったのに、咳だけが2週間残っている。
どれも、鼻が関わっているかもしれない咳です。
では、鼻水と痰は何が違うのでしょうか。
違いは中身ではなく、出る場所
鼻の粘膜から出れば鼻水。気管や気管支から出れば痰。
中身はどちらも同じ「粘液」です。
粘液は、空気と一緒に入ってきたほこりやウイルスをからめ取る、体のフィルターです。
鼻は入口のフィルター。気管や気管支は奥のフィルター。
入口で作られた鼻水は、前に出れば「鼻水」と呼ばれます。
後ろに落ちて、のどにたまり、咳で出てくると、本人には「痰」に見えます。
これが後鼻漏です。
もうひとつ、ややこしい事実があります。
本当に痰が出ているときでも、そこに鼻水が流れ込んで混ざっていることがあります。
つまり、痰か鼻水かは、はっきり二つに分かれないことも多いのです。
医師でも、口の中をのぞいて初めて「鼻水が落ちてきている」と気づくことがあります。
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黄色や緑でも、細菌とは限らない
かつて:色がついたら細菌。細菌なら抗菌薬。
いま:色は白血球の色。ウイルスのかぜでも黄色や緑になる。
黄色や緑の色は、白血球が働いた後に残る色素の色です。
ウイルスと戦ったときも、白血球は同じように働きます。
だから、色だけでは抗菌薬が必要かどうかは決まりません。
(出典:Butler CC, et al. Eur Respir J 2011;38:119-125. 13か国3,402人の急性の咳。色つきの痰は抗菌薬の処方を増やしたが、回復は早まらなかった)
上気道咳症候群(後鼻漏)は、成人の慢性咳嗽でもっとも多い原因のひとつである。
米国胸部医学会(ACCP)咳診療ガイドライン 2006 の要旨
「痰が出る」と思ったら、まず鼻を疑う。
診察で伝えると役立つ、3つの観察
家で痰と鼻水を見分けるのは、正直むずかしいです。
見分けるかわりに、次の3つを覚えておいて、診察のときに教えてください。診察の大事な手がかりになります。
- 鼻の症状はあるか。鼻づまり、鼻水、鼻をすする音。咳と一緒にあるなら、鼻が関わっている可能性が上がります。
- 咳が増える時間帯はいつか。寝入りばな、明け方、起きぬけ。横になると鼻水がのどに落ちやすくなります。日中は平気なのに夜だけ咳き込む、は大事な手がかりです。
- いつから続いているか。かぜの後の咳が3週間を超えたら、経過そのものが情報です。「いつ始まって、いつから変わらないか」を一言で言えるようにしておくと助かります。
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よくある誤解
誤解:黄色や緑の痰は、細菌感染のサイン。
本当のところ:白血球の色です。ウイルスでも色はつきます。抗菌薬が要るかどうかは、色では決まりません。
誤解:痰が出るなら、肺や気管支が悪い。
本当のところ:鼻から落ちてきた鼻水であることがとても多いです。痰と鼻水が混ざっていることもあります。
誤解:痰か鼻水かは、自分で見分けられる。
本当のところ:医師でも、のどをのぞいて初めて分かることがあります。それでもはっきりしないことがあり、そのときは経過を見ながら判断します。無理に見分けなくて大丈夫です。上の3つを診察で教えてください。
鼻の奥の空洞(副鼻腔)の炎症が疑わしいときは、当院では副鼻腔の画像検査ができないため、耳鼻科をご紹介することもよくあります。
咳がつらいときは、部屋を加湿し、水分をこまめにとり、寝る前に鼻をかんでおくと楽になることがあります。
痰に血が混じる、息が苦しい、発熱が続く、咳が3週間以上続く、子どもが水分をとれない・ぐったりしている。このときは早めに受診してください。
今日からできること
- 咳が出るとき、鼻づまりや鼻水が一緒にあるかをメモする
- 咳が増える時間帯(寝入りばな・明け方・起きぬけ・日中)を記録する
- 鼻をかめる年齢なら、寝る前に一度しっかり鼻をかむ
- かぜの後の咳が3週間を超えたら、上の記録を持って受診する
咳が長引いているときは、鼻の様子も一緒に教えてください。診察の大きな手がかりになります。
参考文献
- Altiner A, et al. Sputum colour for diagnosis of a bacterial infection in patients with acute cough. Scand J Prim Health Care 2009;27:70-73.
- Butler CC, et al. Antibiotic prescribing for discoloured sputum in acute cough/lower respiratory tract infection. Eur Respir J 2011;38:119-125.
- Pratter MR. Chronic upper airway cough syndrome secondary to rhinosinus diseases (previously referred to as postnasal drip syndrome): ACCP evidence-based clinical practice guidelines. Chest 2006;129:63S-71S.
- 日本呼吸器学会. 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019.
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