「立ちくらみがする!めまいがする!なんとなくだるい!」
「私は、貧血じゃないかしら?」
貧血はみなさんもおなじみの言葉だと思います。みなさんも一度は自分の症状が貧血じゃないかって疑ったことがあるのではないかと思います。
貧血とは、血液中のヘモグロビンという物質が減少した状態のことです。
ヘモグロビンはからだのなかにある肝臓とか腎臓、筋肉といった臓器に酸素を運ぶ大切な役割を果たしています。貧血の状態になると、からだの臓器の酸素が不足するようになり、倦怠感や息切れといった症状が起きるようになります。
貧血は、鉄やビタミン、出血などが原因であるため、まずは採血でどのタイプの貧血かを調べることが大切です。
本記事では、貧血の中でも代表的な鉄欠乏性貧血を話題を中心に、どんな時に貧血を疑うか、貧血の治療法などについて解説します。
鉄欠乏症・鉄欠乏性貧血の症状
鉄欠乏はごくありふれた栄養問題のひとつで、外来でもよく見かける訴えです。
患者さんご自身が貧血の症状を自覚して来院されたり、健康診断で貧血を指摘されたために受診をしたりします。
また、貧血にはいたっていなくても鉄欠乏状態になっていることもあります。
鉄欠乏症・鉄欠乏性貧血の症状はかなり多彩です。以下のような症状がでる可能性があります。
- 疲労感
- 眠気
- 無気力・集中力の低下
- 頭痛
- 抜け毛
- 筋肉や関節の痛み
- 浮腫
- 息切れ・呼吸困難
- 安静時、労作時の動機
- 体重増加
- 記憶力の低下
- めまい
- うつ病
- 不安
- 手足の冷え
- 睡眠障害
- 月経の異常
- 軽度の発熱
- 乾燥肌・そう痒症ほか
かなりいろいろな症状があるのではないかと思っていただけたのではないでしょうか?鉄欠乏症の症状は個人差が大きいです。長い間、貧血の状態hが続くとからだが慣れてしまい症状を自覚していない方もいます。
また、年単位で鉄欠乏症の症状がずっと続いている方もいらっしゃいます。
立ちくらみがあるのに貧血じゃない?
立ちくらみがあって貧血の検査をしたけども貧血や鉄欠乏がないこともよくあります。
この場合、立ち上がったときに血圧が下がる起立性低血圧症の可能性があります。一時的に脳への血流が減少したために脳が虚血状態、酸素不足になった状態です。
健康なヒトでも立ちくらみは起きます。ヒトは立ち上がるときには重力のため血液が下半身に集まるため、脳へ行く血液が一時的に減ってしまいます。しかし、ヒトの体は、血圧を一定に保ち、脳の血流を正常に戻す機能を持っています。
血圧が低下すると血圧の変動を感知して、交感神経の働きによって心臓の動きを強めたり、血管を収縮したりして血圧を回復させるように働きます。こうした体の仕組みが上手く働かないと起立性低血圧が生じます。
鉄欠乏症・鉄欠乏性貧血の診断
鉄欠乏症の診断のためには血液検査をして、からだの中の貯蔵鉄の指標であるフェリチン値の低下を確認することが必要です。すでに貧血も伴っていることも多くみかけます。
鉄欠乏性貧血と診断した後には、さらにその要因が存在していることもあり、むしろこちらの方が重要な場合があります。
思春期であれば、不規則な食生活、からだの成長に伴う急激な鉄需要の増加などが考えられます。月経のある女性の場合には、婦人疾患があるかどうかを調べる必要があります.
中高年男性や閉経している女性に鉄欠乏性貧血を認めた場合には、悪性腫瘍や胃潰瘍などの検査が欠かせません。当クリニックでは必要に応じて専門病院に紹介しております。
鉄欠乏症・鉄欠乏性貧血の治療
鉄欠乏症の治療は鉄の補充の一択です。鉄剤を服用すると吐き気、胃痛、下痢などの胃腸障害を認めることがあります。副作用が強い場合には、服用する薬の種類を変更したり、服用するタイミングを変更してみます。日中の嘔気がつらいのではあれば入眠前に鉄剤を服用して寝てしまうという手もあります。
また、鉄剤を飲むと便が黒くなることがありますが、これはあまり気にしなくても問題ありません。 ほかにもいくつかの注意点があります。
点滴治療は必要か?
点滴での補充を希望される方がいますが、たいていの場合には、その必要はありません。
逆に点滴での治療は鉄が体に蓄積して、とても危険な副反応を起こすことがあります。内服治療は比較的安全です。過剰に鉄剤を飲んでも体から排泄されます。
いつまで治療を続けるか?
貯蔵鉄を回復させるために、さらに3~6カ月程度の鉄剤の服用が必要となることが多いです。
貯蔵鉄の回復を確認しないまま早期に鉄剤の補充を中止すると、鉄欠乏及び鉄欠乏性貧血の状態にあっという間に戻ってしまいます。
貯蔵鉄量の目安はフェリチン値を用いることが一般的です。フェリチンの値が25 ng/mL以上くらいまで改善することが治療を中止する一つの目安です。
治療しても貧血が良くならない時に考えること
鉄剤を飲んでいても、貧血が良くならないことがあり、その場合には原因の究明が必要です。主な原因を紹介します。
身体のどこかで出血がないか?
どこかで出血していたら、ざるで水をすくうようなものでなかなか改善しません。
胃潰瘍や高齢者の悪性腫瘍は外来ではときおり遭遇する問題です。
普段から、定期的ながん検診は必ず受けてください。ご婦人は婦人科健診をきちんと受けてください。子宮筋腫や婦人科悪性腫瘍も貧血の原因となります。
腹痛がある、便が黒い、性器出血・・・このような症状がある場合にはほんとに注意が必要です。迷わずに病院を受診してください。
鉄剤はきちんと飲めていますか?
鉄剤は、腹痛、悪心、嘔吐などの症状を引き起こし、内服できない方もいます。高齢者では飲み忘れの可能性もあります。
ヘリコバクター・ピロリ感染
ピロリ感染で、鉄の吸収障害が生じます。除菌療法により鉄剤の吸収が改善することがあります。
診断が違う
貧血があっても、原因が鉄欠乏ではないこともあります。ビタミン不足や血液の病気の可能性もあります。まずは病院を受診して血液検査をしてしっかりと原因を確認しましょう。
若い女性が鉄欠乏症になった時の注意点
若い女性の貧血の場合、月経が続く限り貧血を繰り返すことがよくあります。治療をやめたらまた貧血を繰り返してしまう可能性があるので注意が必要です。
若い女性の場合にはまずは婦人科健診は受けた方がよいでしょう。繰り返しますが、子宮内膜症や子宮筋腫、悪性腫瘍のチェックが必要です。
HPVワクチンを受けた人でも子宮頸がんになることだってあります。
消化管の悪性腫瘍の可能性はそれほど高くはないですが、貧血の改善が思わしくない場合には若くても胃カメラや大腸カメラが必要となってきます。
妊娠の希望がある方
赤ちゃんができると血液をたくさん作る必要があり、必要な鉄分の量も増えます。そのために妊娠中に貧血が悪化する方が多いです。
妊娠中はつわりや便秘になりやすく、鉄剤を飲むことがつらくなられる方も多いです。妊娠前に可能な限りで鉄分を貯めておきましょう。
さいごに
- 鉄欠乏症・鉄欠乏性貧血の症状はとても多彩です。もし、自分の症状が貧血かもしれないと思ったときは、血液検査を行いましょう。
- 鉄欠乏症・鉄欠乏性貧血の治療は鉄剤の服用です。治療は数か月になる可能性があるのでしっかりと鉄剤を服用してください。
- 鉄欠乏、鉄欠乏性貧血になった原因が大切です。とくに治療していても良くならない時には原因を調べる必要があります。若い女性婦人科では健診を受けて子宮内膜症や子宮筋腫、悪性腫瘍を調べましょう。中高年、高齢者では悪性腫瘍を疑うきっかけとなることがあります。