
この記事は、健診でHbA1cや血糖値の異常を指摘されたことがある方に向けて書いています。
健診の結果票を手にして、こんなふうに思ったことはありませんか。
「血糖値がちょっと高いって書いてあるけど、体はどこも悪くないし……」
「去年も同じことを言われたな。でも別に何ともないから大丈夫かな」
その感覚、とてもよくわかります。でも、今日はその「大丈夫かな」に、少しだけ待ったをかけさせてください。
血糖値の異常には、初期にほとんど症状がありません。だからこそ、症状が出てからでは遅いことがある。そして、今この段階だからこそ、十分に間に合うのです。
「糖尿病予備群」とはどんな状態?
健診でよく使われる指標に「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)」があります。過去1〜2か月の血糖の平均的な状態を反映する数値です。
・正常:5.5%以下
・要注意(予備群):5.6〜6.4%
・糖尿病域:6.5%以上
「要注意」と言われた段階を、医学的には「糖尿病予備群(境界型)」と呼びます。この段階では、まだ糖尿病とは診断されません。でも、何もしなければ、数年のうちに糖尿病に進行してしまうリスクがあります。
逆に言えば、この段階で生活習慣を変えると、糖尿病への進行を予防・遅らせることができます。介入効果が最も高い「チャンスの時期」です。
なぜ「症状がない」のに危ないのか
注意してほしいのは、これらのリスクは「糖尿病になってから」始まるわけではない、ということです。血糖値が高め(予備群)の段階から、血管へのダメージはすでに少しずつ蓄積しています。
糖尿病が「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれる理由がここにあります。
血糖値が高い状態が続くと、全身の細い血管や神経がじわじわとダメージを受け続けます。ところが、その過程でほとんど痛みや自覚症状が出ないのです。
気づいたときには、合併症がかなり進んでいた――そういうケースが、残念ながら珍しくありません。
代表的な合併症を簡単に紹介します。
目(糖尿病網膜症)
目の奥の血管が傷つき、視力が低下します。進行すると失明につながることもあります。日本の成人失明原因の上位に入る病気です。初期は無症状のため、眼科で定期的に診てもらうことが大切です。
腎臓(糖尿病腎症)
腎臓のろ過機能が落ちていき、最終的には人工透析が必要になることがあります。透析になると週3回・数時間の通院が一生続きます。日本で透析を始める原因の第1位が、この糖尿病腎症です。
足(糖尿病神経障害・足病変)
足の神経が傷つくと感覚が鈍くなり、小さな傷に気づけなくなります。傷が悪化して壊疽になると、最終的に足の切断が必要になることもあります。「痛くないから大丈夫」が、最も危険な落とし穴です。
これらの合併症は、血糖のコントロールをしっかり続けることで、かなりの確率で予防できます。逆に、放置し続けると確実にリスクが高まります。
今日からできること――生活習慣の3つのポイント
「生活習慣を変える」と聞くと、大変なことのように感じるかもしれません。でも、最初からすべてを変える必要はありません。まず一つだけ、続けてみてください。
① 食事:まず「何をどれだけ食べているか」を知ることから
血糖値に最も影響するのは、食事の内容と量です。「野菜から食べると血糖が上がりにくい」と聞いたことがある方も多いと思いますが、食べる順番を変えても、食べる量や内容が同じであれば効果は限定的です。それより大切なのは、主食(ご飯・パン・麺)の量を少し意識すること、野菜・海藻・豆類・たんぱく質を増やすことです。
ひとつ注意してほしいのは、「体に良いもの」であってもカロリーや糖質はある、ということです。果物・はちみつ・玄米・さつまいもなど、ヘルシーなイメージのある食品でも、食べすぎれば血糖値は上がります。「良いものだから大丈夫」ではなく、「何をどれだけ食べているか」を一度振り返るところから始めてみてください。
② 運動:食後10分歩くだけでも違う
特別なスポーツを始める必要はありません。食後に10〜15分歩くだけで、血糖値の急上昇をかなり抑えることができます。エレベーターより階段、一駅分歩くなど、日常の中に「ちょっと動く」習慣を組み込むのが長続きのコツです。
③ 睡眠・ストレス:意外と見落とされがちな要因
睡眠不足や慢性的なストレスは、血糖値を上げるホルモンの分泌を増やします。食事や運動だけに目を向けがちですが、十分な睡眠をとることも血糖管理の大切な一部です。
おすすめ:映画「糖尿病の不都合な真実」
糖尿病の合併症がどれほど深刻か、言葉で説明するには限界があります。
予防医療普及協会が制作した「糖尿病の不都合な真実」は、クラウドファンディングで作られたからこそ、企業スポンサーありきの映像では踏み込めなかった糖尿病の「本当の怖さ」を正面から描いた作品です。
「数値が少し高いだけ」と思っている方にこそ、ぜひ見ていただきたい内容です。診察室でお伝えできることには時間の限りがありますが、この映画がその補いになればと思っています。
映画「糖尿病の不都合な真実」公式サイト:https://yobolife.jp/diabetes_truth/
数値が気になったら、まず自分で動いてみる
「HbA1cが6.0%なんて、まだ糖尿病じゃないし」と感じるのは自然なことです。ただ、この数値が意味しているのは「異常ではないが、このままでいいわけでもない」という状態です。
まずは生活を振り返るところから始めてみてください。食事の記録を3日つけてみる、毎日の歩数を意識してみる――小さなことでも、自分の状態を「見える化」するだけで気づきが生まれます。
数値は、生活習慣を変えれば変わります。「どうせ……」と思う前に、できることから一つだけ試してみてください。
まとめ
・「血糖値が高め」の段階は、糖尿病予備群。まだ間に合うタイミング
・予備群の段階からすでに血管へのダメージは始まっている
・失明・透析・足の切断は、血糖管理で予防できる
・食事の内容と量・食後ウォーキング・十分な睡眠から始めてみる
・数値は生活習慣を変えれば変わる。まず一つだけ試してみる
もっと詳しく知りたい方へ(e-ヘルスネット/厚生労働省)
・食事と健康:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food
・身体活動・運動:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise
・こころの健康(睡眠・ストレス):https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart