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貧血=鉄不足とは限りません

📅 2026年7月14日 (2日前に公開)

自己判断で鉄を飲む前に知ってほしいこと

健康診断で「貧血」と言われた。

すると、

「鉄が足りないのかな」

「鉄のサプリを飲んでみよう」

そう考える方は少なくありません。

鉄不足による貧血は、たしかによくあります。

でも、ここで一つ大切なことがあります。

貧血=鉄不足とは限りません。

鉄を補う前に、まず原因を確認する。

これがとても大切です。

貧血は「原因」ではなく「結果」です

貧血とは、血液中のヘモグロビンが少なくなった状態です。

ヘモグロビンは、全身に酸素を運んでいます。

そのため貧血になると、

疲れやすい。

息切れがする。

動悸がする。

立ちくらみがする。

仕事や勉強に集中しにくい。

こうした症状が出ることがあります。

ただし、貧血は一つの病気ではありません。

さまざまな病気や体の変化によって起こる「結果」です。

原因によって、必要な治療も変わります。

鉄が不足する理由を考える

鉄欠乏性貧血は、体内の鉄が不足して起こります。

原因として多いのは、月経による出血です。

特に月経量が多い「過多月経」では、少しずつ鉄が失われます。

妊娠や成長期には、体が必要とする鉄の量が増えます。

食事量が少ない方では、鉄の摂取不足も考えます。

胃や腸から、少量の出血が続いていることもあります。

つまり、鉄欠乏性貧血と分かっても、そこで診断は終わりではありません。

次に考えるのは、

なぜ鉄が不足したのか。

ということです。

男性や閉経後の女性は、特に原因の確認が大切です

月経のある女性であれば、月経による鉄不足が原因となることがあります。

それでも、すべてを月経のせいにすることはできません。

過多月経がない。

閉経している。

男性である。

このような方に鉄欠乏性貧血が見つかった場合は、胃や腸からの出血なども含めて原因を調べる必要があります。

消化管からの出血は、目で見て分かるとは限りません。

便が黒くならない程度の出血が、少しずつ続くこともあります。

海外の診療ガイドラインでも、男性や閉経後女性の鉄欠乏性貧血では、症状がなくても上部・下部消化管の評価が推奨されています。実際にどの検査を行うかは、年齢、症状、病歴などを確認したうえで判断します。(ガストロジャーナル)

「鉄を飲んだら数値が戻った」

それだけで安心できるとは限りません。

出血の原因が残っていれば、鉄不足を繰り返す可能性があるからです。

鉄不足ではない貧血もあります

貧血の原因は、鉄不足だけではありません。

葉酸やビタミンB12の不足。

腎臓病に伴う腎性貧血。

慢性的な炎症に伴う貧血。

赤血球が壊れやすくなる病気。

骨髄や血液の病気。

出血。

このほかにも、多くの原因があります。

鉄が足りている人に鉄を補っても、原因に合った治療にはなりません。

葉酸やビタミンB12が不足する貧血

赤血球を正常に作るには、鉄だけでなく、葉酸やビタミンB12も必要です。

これらが不足すると、通常より大きな赤血球が作られる「大球性貧血」になることがあります。

血液検査では、「MCV」という赤血球の大きさを示す数値が手がかりになります。

ただし、MCVが大きいからといって、必ず葉酸やビタミンB12の不足とは限りません。

薬の影響。

飲酒。

肝臓の病気。

甲状腺の病気。

骨髄の病気。

こうした原因でもMCVが大きくなることがあります。

血液検査の一項目だけで判断せず、病歴やほかの検査結果と合わせて考えます。ビタミンB12や葉酸の欠乏では、巨赤芽球性貧血を起こすことがあります。(厚生労働省)

腎臓の働きが低下して起こる貧血

腎臓は、尿を作るだけの臓器ではありません。

赤血球を作るよう骨髄に伝える「エリスロポエチン」というホルモンにも関係しています。

腎臓の働きが低下すると、赤血球を十分に作れなくなり、貧血になることがあります。

これが腎性貧血です。

ただし、腎臓病がある方の貧血が、すべて腎性貧血とは限りません。

鉄不足や出血など、別の原因が重なっていることもあります。

日本腎臓学会の「CKD診療ガイド2024」でも、腎臓病のある方に貧血が見つかった場合は、その原因を調べることが重要とされています。(日本腎臓学会)

私が経験した、鉄を補い続けた症例

私は以前、貧血に対する鉄の投与が長期間続き、体内に鉄が蓄積した症例報告を報告しました。

患者さんは70歳代の女性でした。

貧血に対して、約7年間にわたり鉄の注射を受けていました。

ところが、詳しく調べると、貧血の原因は鉄不足ではありませんでした。

葉酸の不足による巨赤芽球性貧血でした。

一方で、長年投与された鉄は体外に排出されず、体内に蓄積していました。

血液検査では、体内の鉄の蓄積を示すフェリチンが7,951ng/mLまで上昇していました。

剖検では、肝臓、心臓、膵臓、甲状腺、副腎、胃など、多くの臓器に鉄の沈着を認めました。

心臓にも鉄がたまり、最終的に鉄過剰性心筋症による心不全を起こしたと考えられました。

これは、長期間にわたって鉄の注射を受けていた、非常にまれで重い症例です。

市販の鉄サプリメントを短期間飲んだだけで、同じことが起こるという話ではありません。

ただ、この症例から得られる教訓は明確です。

貧血を見たら、鉄を補う前に原因を確認する。

鉄を使う場合も、効果や体内の鉄の状態を確認しながら続ける。

当たり前に見えることですが、とても大切です。

医療機関では何を確認するの?

貧血の診療では、まずお話を詳しく伺います。

いつから貧血があるのか。

月経量は多くないか。

不正出血はないか。

黒い便や血便はないか。

食事は十分に取れているか。

体重が減っていないか。

胃や腸の手術を受けていないか。

腎臓病などの持病はないか。

どのような薬やサプリメントを使っているか。

こうした情報が、原因を探す手がかりになります。

血液検査では、ヘモグロビンだけでなく、赤血球の大きさを示すMCVや、若い赤血球である網状赤血球を確認します。

必要に応じて、フェリチン、血清鉄、鉄結合能、腎機能、炎症反応、ビタミンB12、葉酸なども調べます。

全員に同じ検査が必要なわけではありません。

年齢、症状、病歴、過去の検査結果を見ながら判断します。

こんなときはご相談ください

健康診断で貧血を指摘された。

以前よりヘモグロビンが下がっている。

鉄を飲んでいるのに改善しない。

鉄をやめると、すぐ貧血を繰り返す。

月経量が多い。

閉経後に貧血を指摘された。

男性で鉄不足が見つかった。

黒い便や血便がある。

息切れ、動悸、強いだるさがある。

一つでも気になることがあれば、自己判断で鉄を続ける前にご相談ください。

過去の健康診断の結果がある場合は、受診時にお持ちください。

今回の数値だけでなく、以前からの変化を見ることが大切です。

まとめ

貧血だから、鉄を飲む。

それだけでは不十分なことがあります。

確認したいのは、次の3つです。

本当に鉄不足なのか。

なぜ鉄が不足したのか。

鉄不足以外の原因はないのか。

鉄剤やサプリメントが悪いわけではありません。

鉄不足が確認された方には、鉄を補うことが必要です。

ただし、原因を確認せずに自己判断で続けると、治療すべき病気を見逃してしまう可能性があります。

健康診断の結果をお持ちになり、お気軽にご相談ください。


川端 浩.鉄欠乏性貧血の診断と鉄剤治療.臨床血液.2024;65(6):503–513.
Ko CW, et al. AGA Clinical Practice Guidelines on the Gastrointestinal Evaluation of Iron Deficiency Anemia. Gastroenterology. 2020;159(3):1085–1094.
Kobayashi T, et al. An Autopsy Case of Secondary Iron-overload Cardiomyopathy. Intern Med. 2013;52(12):1369–1373.

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南22条おとなとこどものクリニック

  • この記事を書いた人

小林 俊幸

小林俊幸(こばやし としゆき)|南22条おとなとこどものクリニック院長。小児科・総合内科。子どもからおとなまで、家族をまるごと診られる町の医師でありたい。診察室で「聞いてよかった」と言ってもらえた話を、ここに書き残しています。 お問い合わせはこちら

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