予防接種

子どもの注射、上手くいく親の秘訣は ― 事前の準備と処置中の声かけ

📅 2026年5月29日 (0日前に公開)

診察室のドアを開けた瞬間、お子さんがぴたっと動かなくなる。腕をそっと差し出そうとした途端、顔をそむけて「やだ!」と声を上げる。そんな場面、経験したことはありませんか。

予防接種や採血のとき、お子さんが不安そうにしていると、親としても辛いですよね。「できればスムーズに済ませたい」と思いながらも、何をしてあげたらいいか分からない、という方も多いのではないでしょうか。

医療現場でも、この課題に向き合う工夫があります。特に難しいものではなく、事前の準備とほんの少しの声かけのコツ。親御さんとクリニックが同じ視点で向き合うことで、お子さんの反応は変わることが多いんです。

それに、お子さんが泣いても怖がっても、それは自然なこと。親としての「申し訳なさ」や「不安」も、当然の気持ちです。でも、ここでの工夫が、親にとってもお子さんにとっても、その時間を少しでも前向きなものに変えることができるのです。

「何が起こるのか」を事前に伝える ― 心の準備のコツ

医療現場では「プレパレーション」と呼びますが、簡単に言うと「これから何が起こるのかを子どもの年齢に合わせてあらかじめ伝え、心の準備をしてもらう」ということです。

人が一番怖いのは「何をされるか分からない」状態です。大人でも、説明のないまま処置をされたら不安になりますよね。子どもならなおさらです。

おうちでできる声かけのコツ

嘘をつかない、正直に伝える。

「全然痛くないよ」と言って実際に痛かったら、子どもは「だまされた」と感じ、次から大人を信じなくなります。「チクッとするけど、すぐ終わるよ」くらいの正直さがちょうどいいのです。

何のためにするのかを伝える。

「病気にならないように、体を守る注射だよ」と目的を一言添えるだけで、子どもの受け止め方は変わります。

年齢に合わせた説明をする。

  • 乳児〜2歳くらい: 言葉より、おおらかな雰囲気が大事。「チクッてするけど、すぐ終わるよ」くらいの短い言葉+抱きしめてあげる
  • 3〜5歳: 簡単なたとえが効きます。「針はちょっと小さい棒。こんなふうにチクッとするけど、すぐ終わる。痛いけど、我慢できるよ」
  • 学童以上:「ワクチンは病気から体を守ってくれるもの。針が刺さるときに少し痛いけど、その後の病気から守ってくれる」と、メリットとセットで説明すると納得しやすい

タイミングを工夫する。

小さな子に何日も前から予告すると、不安だけが長引きます。乳幼児なら当日直前、学童なら前日の夜くらいが現実的です。

選べる余地をつくる。

「右と左、どっちの腕にする?」のように、ほんの少しでも自分で決められると、子どもは「やらされている」感覚から抜け出せます。

処置のときに注意をそらす ― 痛みと不安を軽くする工夫

医療現場では「ディストラクション」と呼びますが、「処置の最中に注意を別のところへ向けることで、痛みや不安を軽くする方法」のことです。痛みは「意識を向けるほど強く感じる」という性質があるため、これは理にかなった工夫なのです。

年齢別の具体例

  • 乳児〜幼児前期: おもちゃ、音の鳴るもの、シャボン玉、好きな動画。抱っこやおくるみで体を包むのも有効です。
  • 幼児〜学童:「窓の外に何が見える?」と探させる、好きなキャラクターの話、ゆっくり息を吐かせる(風車を吹く・深呼吸)、手をぎゅっと握る。
  • 学童以上: スマホの動画やゲーム、好きな話題のおしゃべり、「10数える間に終わるよ」とカウントダウンを一緒にする。

ポイントは、処置そのものから意識を引きはがすこと。「痛い? 痛い?」と聞き続けるのは逆効果で、痛みに注意を集めてしまいます。当院でも、声かけや小道具で気をそらす工夫を心がけています。

この体験が、大人になってからも続く ― 子どもの世代へつなぐもの

ここが一番大切なところです。

子どもにとって最初の数回の予防接種体験は、「医療との出会い」そのものです。押さえつけられて恐怖だけが残れば、注射は「怖いもの・避けたいもの」として記憶されます。一方、説明を受けて、気をそらしてもらって、「思ったより大丈夫だった」「頑張れた」と感じられれば、それは小さな成功体験になります。

この積み重ねが、やがて子ども自身がワクチンの意味を理解し、感情ではなく情報をもとに判断できる力につながります。医学的な知識だけでなく、医療に向き合う「心の準備」ができるようになるということです。

「なぜ打つのか」を子どもなりに理解し、「怖いけど自分の体を守るために必要」と納得して受けた子は、大人になっても予防接種を冷静にとらえられます。そしていつか自分が親になったとき、同じように落ち着いてわが子を医療につなげられます。

こうして、親世代から子世代へ、良い医療との関係が受け継がれていくのです。

当クリニックでの工夫

ちなみに、当院の待合室には予防接種を前向きに理解するための絵本を置いています。接種の直前に、お子さんと一緒にこの絵本を見ることで、「ワクチンは何のためにするのか」を年齢なりに理解でき、不安が軽くなることが多いです。

待ち時間を活用して、おうちでもぜひ一緒に見てみてください。

おうちの方へ

接種前後にやってみたいことを、下のチェックリストにまとめました。ぜひ巡回しながらお役立てください。

注射の数分間は、ただの試練ではありません。子どもが「自分の健康は自分で守るもの」と感じ取る、最初のレッスンの場です。私たち医療者とおうちの方が一緒に支えることで、その体験はきっと前向きなものに変えられます。

ご不安なことがあれば、接種の前後に遠慮なくお声がけください。

実装チェックリスト

接種の前日〜当日朝

  • 年齢に合わせた簡単な説明をしてみた
  • 「何のためか」を一言添えた
  • 絵本などで予防接種について一緒に見た

接種当日(待合室で)

  • 気をそらせるおもちゃ・動画・好きな話題を用意した
  • 深呼吸や数を数えるなど、リラックス法を伝えた

接種直後

  • 泣いても泣かなくても「頑張ったね」と認めた
  • 接種が「悪いこと」のように見えないよう、プラスの言葉がけをした

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南22条おとなとこどものクリニック

  • この記事を書いた人

小林 俊幸

小林俊幸|南22条おとなとこどものクリニック院長。小児科・総合内科。「がんばりすぎない健康」をテーマに情報発信中。 お問い合わせはこちら

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