私、鉄不足かしら?
「立ちくらみがする!めまいがする!なんとなくだるい!」
「私は、貧血じゃないかしら?」
さて、これから、どうしましょうか?貧血の判断は血液検査をしてみないとわからないことも多いです。
本記事では、どんな時に貧血を疑うか、貧血の治療法などについて解説したいと思います。
本記事の内容
✔ 鉄欠乏症の症状
✔ 鉄欠乏症の診断
✔ 治療を受ける時の注意
✔ 治療しても貧血が良くならない時に考えること
✔ 若い女性が鉄欠乏症になった時の注意点
✔ さいごに
鉄欠乏はごくごくありふれた栄養問題のひとつです。
日常外来でもよく見かけます。患者さん自身が貧血症状を自覚して来院されたり、健康診断で貧血を認めるため受診をしたりします。
鉄欠乏症は、貧血に至っていると診断されやすいのですが、貧血がない場合には鉄(特に貯蔵鉄)を調べることも少ないので見逃されやすいのです。
そうです、貧血のない鉄欠乏症は見逃され続けるため患者さんは長きにわたって症状に苦しむことになりかねない病態なのです!
鉄欠乏症の症状はかなり多彩です。
疲労感
眠気
無気力・集中力の低下
頭痛
抜け毛
筋肉や関節の痛み
浮腫
息切れ・呼吸困難
安静時、労作時の動機
体重増加
記憶力の低下
めまい
うつ病
不安
手足の冷え
睡眠障害
月経の異常
軽度の発熱
乾燥肌・そう痒症ほか
鉄欠乏症の症状は個人差が大きく、また、年単位で鉄欠乏症の症状が続く方もいます。貧血は鉄欠乏が続いた後に認めます。
患者さんにとっては辛い症状がずっと続いている方もいるのです。
鉄欠乏症の診断のためには貯蔵鉄欠乏の指標であるフェリチン値の低下を確認することが必要です。すでに貧血も伴っていることも多くみかけます。
鉄欠乏性貧血と診断した後には、さらにその要因となる疾患の存在していることもあり、むしろこちらの方が重要な場合があります。
思春期であれば、不規則な食生活、成長に伴う急激な鉄需要の増加などを考えます。月経のある女性の場合には、婦人科的疾患の有無を調べる必要があります.
中高年男性や閉経している女性に鉄欠乏性貧血を認めた場合には、悪性腫瘍や胃潰瘍などの検査が欠かせません。
鉄欠乏症の治療は鉄の補充の一択です。
いくつかの注意点があります。
たまに点滴での補充を希望される方がいますが、たいていの場合には、その必要はありません。
逆に点滴での治療は鉄が体に蓄積して、とても危険な副反応を起こすことがあります。内服治療は比較的安全です。過剰に鉄剤を飲んでも体から排泄されます。
貯蔵鉄を回復させるために、さらに3~4カ月の鉄剤の服用が必要ということです。
早期に治療をやめてしまう人がいます!外来に来なくなってしまう方がいます。
貯蔵鉄の回復を確認しないまま早期に鉄剤の補充を中止すると、鉄欠乏及び鉄欠乏性貧血の状態に瞬く間に戻ってしまいます。
貯蔵鉄量の目安はフェリチン値を用いることが一般的です。フェリチンの値が25 ng/mL以上くらいまで改善することが治療を中止する一つの目安です。
鉄剤を飲んでいても、貧血が良くならないことがあり、その場合には原因の究明が必要です。主な原因を紹介します。
どこかで出血していたら、ざるで水をすくうようなものでなかなか改善しません。
胃潰瘍や高齢者の悪性腫瘍はごくありふれたことです。
普段から、定期的ながん検診は必ず受けてください。ご婦人は婦人科健診をきちんと受けてください。子宮筋腫や婦人科悪性腫瘍も貧血の原因となります。
腹痛がある、便が黒い、性器出血・・・このような症状がある場合にはほんとに注意が必要です。迷わずに病院を受診してください。
鉄剤は、腹痛、悪心、嘔吐などの症状を引き起こし、内服できない方もいます。高齢者では飲み忘れの可能性もあります。
ピロリ感染で、鉄の吸収障害が生じます。除菌療法により鉄剤の吸収が改善することがあります。
自己判断は禁物です。まずは受診して血液検査を受けましょう。
貧血があっても、原因が鉄欠乏ではないこともあります。私の経験でも、貧血に対して鉄剤を数年間点滴に通っていた患者さんがいました。鉄欠乏ではなかったのでまったく改善はしませんでしたね。
若い女性の貧血の場合、月経が続く限り貧血を繰り返すことがよくあります。治療をやめたらまた貧血を繰り返してしまう可能性があるので注意が必要です。
若い女性の場合には特に婦人科健診は受けた方がよいです。繰り返しますが、子宮内膜症や子宮筋腫、悪性腫瘍のチェックが必要です。
HPVワクチンを受けた人でも子宮頸がんになることだってあります。
消化管の悪性腫瘍の可能性はそれほど高くはないですが、貧血の改善が思わしくない場合には若くても胃カメラや大腸カメラが必要となってきます。
赤ちゃんができると血液をたくさん作る必要があり、必要な鉄分の量も増えます。そのために妊娠中に貧血が悪化する方が多いです。
妊娠中はつわりや便秘になりやすく、鉄剤を飲むことがつらくなられる方も多いです。妊娠前に可能な限りで鉄分を貯めておきましょう。
貧血を疑う症状は多彩です。もし、疑ったら血液検査を受けてください。
鉄欠乏症及び鉄欠乏性貧血が確認された場合には原因究明、治療をしっかりと受けてください。中高年、高齢者では悪性腫瘍を疑うきっかけとなることが多々あります。